[ReVieW] 十人の憂鬱な容疑者(ゲームブック)

 今回は,『十人の憂鬱な容疑者』という本のレビューです。本は本でもゲームブックと呼ばれるものです。ゲームブックは本を読み進むためには指定された数字のパラグラフに飛んでストーリーを進めていかなければならず、私も子どもの頃に図書館で見つけて遊んだものです。
 このゲームブックはSCRAP(少年探偵団)による製作です。そう,2013年に一気に話題になったリアル脱出ゲームの企画団体として有名ですよね。私も過去2回参加したことがあります。その話は次の機会に残しておくとして,本の話に戻りましょう。




コンポーネント(HUD,音楽の質とオリジナリティー,ストーリー,グラフィックなど) :6pt.(最高)

付属のトレーシングペーパーや地図はとても素晴らしい質でストレスなくゲームを進めることができます。またなぜトレーシングペーパーなのか,なぜ地図が別についているのか,なぜそのマークがここにあるのかという説得力が強く秘められているのが大変素晴らしく,これらが珍しいゲームブック体験を構成する要素として堂々としています。

プレイアビリティー(複雑すぎないか,流れはよいか,システムは適切か) :5pt.(ほとんど完璧)

本書は本書の謎とWebの謎に分かれていて,本書の謎のレベルデザインは素晴らしい出来です。日をおくとすっきり謎を解けたり,気づくと「アッ」と思わず声も出そうになるほど納得したり。反面で、Webの謎はかなり不親切でありプレイアビリティーが良いものではないと判断しました。しかしながらそうして得られる謎解き体験は格別のものです。
 本書の方での欠点を強いて挙げるならば,死亡フラグが分かり難いためそこがストレスになるかと思われます。最後の方の息をつかせぬ逃走劇はあれだけの選択肢があるのだから,道筋は増やしてみて欲しいものです。

インタラクション(ひとりプレイか,相互に関わりあってプレイできるか) :1pt.(ほとんどソリティアである)

1人で進めるゲームブックである上,Webの謎も1人で解くものなので,インタラクション性は無し。みんなで盛り上がるゲームではないでしょう。

意図的介入(運の要素が強いか,戦略的か):6pt.(純粋な思考ゲーム.運の要素はない )

全ての解凍に論理的な理由があります。ゲームブックであるためなんとなく解くこともできなくもないですが,それはこのゲームブックの性質とは関係ないものです。
 完全な論理パズルを楽しむことができるでしょう。

魅力(どれくらい楽しいか):5pt.(とても気に入った)

全ての要素を何度も使い倒し謎を解き進めていく楽しさを感じられたのは、私はこのゲームブックが初めてです。ただし一点だけ,これは本書を遊ぼうと思ってくださる皆さんに聞いて欲しいことでもありますが,マイナス点があります。それはリプレイ性がないことです。謎解きに関しては特にそうです。トレーシングペーパーはトレーシングペーパーだからこそ意味があり,地図もそのサイズであるからこそ意味があり,本書のギミックも不可逆性の謎解きがあります。これは様々なものをコピーして真っさらな状態のままとっておくことのできないゲームです。これでは楽しんだ後に友人に貸すこともできず,また売ることも難しいでしょう。とっておくようなゲームでもないので,そのもどかしさは如何ともしがたい。

総評:75.9点(素点:23/30pt.)

素点を3.3倍し100点満点で計算した点数がこちらです。100点のゲームは存在しないという観点なので実際は99点が最高ですが,今回は75.9点となりました。点数はあくまで他のゲームとの比較用であったりほんの目安なので,そこまで気にしないで商品に触れて欲しいですね。
 さてこのゲームブック,少々値段が張るものの,私はコンポーネントの豊かさに一目見て「一人専用のボードゲームみたいだ」とわくわくして購入するに至りました。結果,大変満足しました。記憶をなくした主人公が閉鎖空間となったお屋敷の中を探索し,だんだんとストーリーが明らかになっていくミステリなのですが,ミスリードあり伏線ありのよくできたお話だと思います。唐突な場面も少しありましたが,キャラクターのコミカルな絵柄とマッチングして「SCRAP感」を演出しています。 謎も普通に難しく手応えありましたね。ヒントがわかっていてももうひとひねりしたり,手を使って謎解きを体験させるデザインはさすがと褒めざるを得ません。頭で考えたものが手を伝わっていて,書籍という媒体を大変上手に使っている例がこれなんだと痛感させられました。
 ぜひ手に取って遊んで欲しいゲームブックです。vol.1と2も買ってみようかな。

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