[MGS5 TPP] 蜂蜜は新兵器の夢を見るか?

こんにちは。
すべらき(Twitter: @T0340T )です。

今回は、先日発売されたゲーム『メタルギアソリッド5 ファントムペイン(MGSV TPP)』の中に出てくる、ハニー・ビーという名前を与えられた兵器についてのお話と考察です。
※この先、物語のネタバレを多数含みます。ご了承ください。


その前に、少し『MGSV TPP』についてお話をさせてください。
『MGSV TPP』は28年前に始まったシリーズの最大の謎を明かす完結編とも呼べるタクティカル・エスピオナージュ・オペレーション・ゲームです。小島プロダクションが前に出て制作をし、その物語のテーマ性や時代性、監督であるコナミの小島秀夫氏の趣味である映画へのオマージュとユーモアにあふれたシリーズの特徴は、世界でも有名です。

そんな話題作『MGSV TPP』には、ハニー・ビー(蜂蜜)というコードネームの新兵器が出てきます。
舞台は1984年のソ連のアフガニスタン侵攻の最中のアフガニスタン現地です。CIAがソ連軍に対抗するムジャヒディンにこの新兵器の供与を開始したのですが、この新兵器を受け取ったムジャヒディン「ハミド隊」が全滅してしまったという情報がCIAに入りました。この新兵器ハニー・ビーをソ連軍が「ハミド隊」の基地から発見し、接収する前に主人公が回収するというミッションがあります。ここで回収できる新兵器ハニー・ビーというのが「キラー・ビー」という名前のついた誘導型のミサイル兵器なのです。

「キラー・ビー」というのは本来は虫につけられたニックネームで、名前を「アフリカナイズドミツバチ」といいます。このアフリカナイズドミツバチはその名の通り、アフリカ化されたミツバチという意味を持ちます。これはアフリカミツバチとセイヨウミツバチの交雑種であり、非常に攻撃的な性質を持っていることで有名です。
そう、CIAが新兵器を南アフリカに持ち込んでいることの暗喩となっているわけです。でもちょっと待ってください。ここはアフガニスタンですよね。南アフリカに新兵器が持ち込まれるのは、またあとのお話のはずです。とりあえず、話を先に進めましょう。

虫の名前を使っているというのもポイントです。今回のゲームの鍵が「声帯虫」と呼ばれる虫であることは、『MGSV TPP』を楽しんでいる皆さんならそろそろ分かってきた頃かと思われます。「CIA(西側)の新兵器(核を超える新兵器)はハニー・ビーことキラー・ビー(南アフリカで育った西側の虫)」という意味を持っているとも推測できます。というのも、「核を超える新兵器」である声帯虫は西側からもたらされ南アフリカで育ったものだということもおさえておくと共に、新兵器ハニー・ビーことキラー・ビーは、新兵器らしい活躍する場を特別に与えられていないからです。

ある程度史実に基づいている『MGSV TPP』のことを考えると、新兵器ハニー・ビーがなぜそのままの新兵器という意味だけでは解釈できないのかということもわかります。
『MGSV TPP』の舞台は1984年ですが、新兵器ハニー・ビーのような誘導型のミサイルは1960年には赤外線ホーミングミサイル「FIM-43 レッドアイ」として開発されていますし、続く「FIM-92 スティンガー」は1981年に米軍に制式採用されています。そのため、「非公式の部隊に渡すような開発したての新兵器」っぽさはありません。
たしかに史実におけるソ連のアフガニスタン侵攻では、アメリカより非公式に供与された「FIM-92 スティンガー」が活躍し世間に大きなアピールをしました。そのことをゲーム内でも現地の兵士が話題にしています。しかし、なればこそ主人公スネークに新兵器を用いてヘリを撃たせる画を作るはずなのです。非正規戦闘での活躍を主人公スネークにさせてきた過去があるのですから。でもあえてしなかったのには、さきのような理由があるからだと思います。描きたいのは新型ミサイルでのヘリ撃墜ではなかった。

さて、ムジャヒディン「ハミド隊」の基地には声の出せない捕虜がいます。彼は声が出せないために後になっても声帯虫の巣とならないのですが、あえてこのミッションで登場させる理由があるとするならばどうでしょう。ここで「声の出せない兵士がいた」という伏線を1つ張るだけで終わらせるでしょうか。
私はそうは思いません。

このゲームは、episode46等からも分かる通り「二面性のあるものを解釈させる」ことを目的としています。加えて、監督は以前の作品から分かるように、ダブルミーニングを大変好まれます。『メタルギアソリッド』も、「ソリッド=立体」と「ソリッド=主人公」とシリーズ当初から二つの意味を持たせているのが代表的なものですね。

そうしたことを鑑みると、あの口のきけない捕虜を出した理由もいくつかありそうです。なにせ、プレイヤーには分からない時間制限を持たせて、制限を超えると殺されてしまうイベントを唯一持たされた特別な捕虜なのですから。
やはりこの口のきけない捕虜は「ハニー・ビー」と「虫」をつなぐミッシング・リンクとして働いているのでしょう。


以上の話を整理すると、こうなります。
CIAはムジャヒディンに供与したハニー・ビーを回収させた
ハニー・ビーことキラー・ビーは南アと西側のつながりを示す名前だった
南アと西側につながりを保っていたのは声帯虫だった

そして声帯虫がつなげていたのは、南アにいるスカルフェイスと西側のゼロ少佐です。
ゼロ少佐は無数のカットアウト(代理人)から指令を出すだけの実在も怪しい存在になってしまっていましたから、指令が混線してこのような「主人公たちのもとでは表立って活躍もしない兵器を回収する」作戦になってしまったのでしょうか。

ここで考えて欲しいのが、新兵器ハニー・ビーを回収するミッション完了時点ではすでにスカルフェイスとゼロ少佐の関係が切れていることを主人公がミラーから聞かされていることです。つまり、ゼロ少佐にスカルフェイスが「贈り物」をしたあとの話だということです。この時点でゼロ少佐はもう身を隠している身の上であることは明白です。となれば、西側の指示が変に伝わってきた可能性もやはりあるわけです。ゼロ少佐が身を隠してから、彼の遺志が暴走し始めたことはシリーズ最近の作品で語られてきました。

一方、スカルフェイスはムジャヒディン「ハミド隊」の基地にやってくるわけですが、なぜ彼はスカルズを伴って現れたのでしょうか。
スカルズの実地試験やハニー・ビーの回収というのもありそうです。ですが、主人公スネークの持っているハニー・ビーを見て「そんな兵器のために」と言っている以上は後者はありえないでしょう。スカルズの実地試験なら、サヘラントロプスをも伴っている必要性がありません。サヘラントロプスは憎悪をもって動かすことができますが、あの場で二足歩行をし動かせるほどの憎悪をスカルフェイスが持っている理由が、この基地にやってきた理由にもなりそうです。
それは、ハニー・ビーという西側の新兵器がゼロ少佐の送り込んだものであるからでしょう。スカルフェイスはゼロ少佐の痕跡を確かめにきたと推察されます。そして、新兵器が「虫」であるなら消そうとした。
自分の憎悪の結晶である「虫」を憎悪の対象であるゼロ少佐にも使われまいと。

そんなことを、命がけで獲得した新兵器ハニー・ビーを取ってきたのに使う機会のない主人公の心境から考えました。

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