続・変身

こんにちは。すべらき( @T0340T )です。

みなさんハースストーンで遊んでいますか。
私は毎日のクエストを消化できる程度に遊んでいます。
カードを引く以外のランダム性の採用と、デジタルカードゲームならではの豪快なカードの能力が、試合のたびにワクワクをもたらしてくれるので飽きずに遊べるのがいいゲームです。
Artist / Jimmy Lo


そんなハースストーンにハマってかなりの時間が経ちました。2014年3月11日の正式リリースから遊んでいるので、そろそろ丸3年遊んでいることになります。
その間ハースストーンには多くの変更がありました。中でも最もインパクトのあった変更はスタンダード・フォーマットの導入ではないでしょうか。

スタンダード・フォーマット」は対戦ルールのひとつで、トレーディングカードゲームの始祖であるマジック・ザ:ギャザリング(以下、MtG)で採用されている対戦ルールから輸入されたものです。

その仕組みは単純で、新しいカードセットをリリースしたら古いカードセットをそのフォーマットを用いた試合では使用不能にすることです。
以前MtGの公式サイトにて紹介されたイメージでは以下のような感じです。
Introducing the New Rotation
Magic:the Gathering公式HPより引用

これにより、古い強力なカードばかりで凝り固まってしまう可能性がある試合環境を、常に新鮮な試合環境として楽しめる自浄作用を持つものに変えることができました。

ハースストーンは当初から、こうしたMtGの歴史に学ぶ良い特徴を大いにリスペクトしていて、カードのデザインやルーリングを真似しながらも独自の強みを出すように変化を重ね、面白さを追求してきました。

ハースストーンではこのスタンダード・フォーマットを2つの軸をもって採用しています。
ひとつは、基本セット、クラシック・セット、その年にリリースされたセットとその前年にリリースされたセットに属するカードのみ使用できるという軸です。
もうひとつは、新しい年の最初のカードセットがリリースされるとローテーション(新しいカードが使えるようになり古いカードが使えなくなること)が行われるという軸です。

今年の4月に新しい年の最初のカードセットがリリースされる予定ですので、スタンダード・フォーマットによるローテーションが行われることになります。
このローテーションにより以前のスタンダード・フォーマットで使えていたカードが新たに使用不能になることを俗にスタン落ちと言います。これはMtGファンの言葉から持ち込まれた表現です。

このスタン落ちをするカードに、クラシック・セットのカードが新たに含まれるのではないかという話が持ち上がっています。
なぜそのような話が持ち上がったかというと、ハースストーン開発陣のうちで中心的人物であるベン・ブロード氏が公式フォーラムに現れ、また、動画に登場してスタンダード・フォーマットの改革の必要性をアピールし続けてきたその内容からです。
個人的にはこの変更をするとしたら、それには賛成です。
なぜなら、ハースストーンのスタンダード・フォーマットは歪んだ形でMtGから輸入してきてしまったことに原因があるからです。

ハースストーンにおけるスタンダード・フォーマットの歪み

それではMtGのスタンダード・フォーマットについて知ることで、ハースストーンのそれとの違いを考え、ハースストーンのスタンダード・フォーマットの問題点を考えていきましょう
MtGの以前のスタンダード・フォーマットは原則「基本セット」とよばれるカードセットと、その基本セットのリリースの前後にリリースされる「ブロック」と呼ばれる特定のテーマに沿った拡張セットの組み合わせでスタンダード・フォーマットを成り立たせていました。

MtGでは基本セットの内容はリリースごとに大部分が変わるので、カードのデザインコンセプトは「その年のスタンダード・フォーマットの試合環境の根底を支えるカードを収録する」ことがメインでした。
つまり、極端に言えばアグロが強い環境にしたければ使いやすいクリーチャー(ハースストーンでいうミニオン)をふんだんに取り入れ、コントロールに天下を取らせたければ強いスペルを収録して、開発陣が環境をある程度コントロールしていたのです。
たとえば環境の基本となるクリーチャーが3マナ2/2でなにも能力をもっていないカードだとしたら、アグロがやりにくい環境で、遅い展開のデッキが有利だとわかるでしょう。

MtGにおける基本セットとは、ハースストーンでいえば基本セットとクラシック・セットのことです。
しかし、ハースストーンではスタンダード・フォーマットの根幹である基本セットとクラシック・セットに属するカードが変わらないので、これらのセットに属するカードたちは試合環境を決めるカードという性質があるというよりも、「ハースストーンというゲームの顔を決める」カードなのです。
新しいカードセットにどんなカードが来ようとも、スタンダード・フォーマットの試合環境の基本となる5マナのミニオンの質は「5マナ4/4雄叫び:カードを1枚引くスペルダメージ+1のドラゴン」になってしまうのです。そう、《アジュア・ドレイク(CSC)》ですね。
Artist / Ben Zhang

これがハースストーンにおけるスタンダード・フォーマットの持つ歪みの正体です
「5マナ4/4スペルダメージ+1」が5マナミニオンのスタンダードである新しい拡張セットをリリースしたくてもできません。それは《アジュア・ドレイク(CSC)》に見劣りしてしまうからです。同様に、すべての8マナミニオンの基本は《炎の王ラグナロス(CSC)》なのです。彼らはゲームの顔であり、試合環境の顔にさえなってしまっているのです。

スタンダード・フォーマットのMtGからの輸入は、それが持つ常に新鮮な試合環境として楽しめる自浄作用をもたらす特徴を期待して採用されました。
しかし、最新のカードセットである「仁義なきガジェッツァン」のリリースから数ヶ月たった今、自浄作用は働いているはずなのですが、ハースストーンの試合環境の閉塞感はぬぐいきれません。
スタンダード・フォーマットを用いたランク戦では初心者がその閉塞感を顕著に感じていると多くの声が上がっています。

だからこそ、私はクラシック・セットの一部カードたちのスタン落ちに賛成なのです。
では、ハースストーンが常にリスペクトしてきたMtGには問題はなかったのでしょうか。
答えを先に書きますと、MtGのスタンダード・フォーマット自体にはあまり問題はありませんでした。先ほど紹介したものとは少し違った構成で今も楽しまれています。
問題は、基本セットにあったのです。

MtGの歴史からハースストーンの将来を見る

MtGの基本セットは、当初は他のゲームでも用いられている「スターター」のような扱われ方でした。ゲームをするにあたってなくてはならないカード(土地のことです)が入っていましたし、試合環境の根幹となるために基本的なカードの収録が多く、初心者向けの内容だったのです。2年に一回刷られたこの基本セットは、その全てが再録(以前収録されたものを再度収録すること)でした。ハースストーンの基本セットとクラシック・セットがそうであるように、ゲームの顔となるカードたちが収録され続けたのです。
内容に少しの変化はあったもののほとんど変わらない内容であるというこの特徴は、ハースストーンのクラシック・カードの一部カードのスタン落ちの話につながります。まさに参考にしているものと思われます。

そうして基本のカードの収録を基本セットに任せることで、拡張セットはすべて上級者向けと位置付けられることになりました。
この拡張セットを「ブロック」とよぶことが定着し、一定のテーマに沿ってデザインされるようになると、基本セットの中にはテーマや背景ストーリーに合わないカードが出てきてしまったり、増えてきた熟練プレイヤーたちがもっと盛り上がるようなカードを望んだりしたといった問題が出てきました。
そこで、基本セットのカードの半分を再録でないものにすることにしました。

あらゆる変化にはメリットとデメリットの双方が生まれるものです。メリットとして、強力なカードを収録することができました。デメリットとして、MtGらしい独自の世界を少しずつ壊すことになってしまいました。
例を出せば「ハースストーンの看板ミニオンといったら《炎の王ラグナロス(CSC)》だよね」といえばよかったものが、「でも今は使えないんだけどね」と追加のセリフが必要になってしまったのです。ラグナロスのいないWoW(ハースストーンの元ネタ)とは、いったいなんなのでしょう。

そのデメリットに対応するために、再録を最低限に抑えつつ、ストーリーを意識したカードデザインを行い、今までの初心者向けと位置付けられた基本セットではあり得なかったくらい強力で魅力的なカードの収録をしました。これは大好評でした。
しかし、あらゆる変化にはメリットとデメリットの双方が生まれるものです
基本セットは、もはや初心者向けの内容とは程遠いものになってしまっていました

ストーリーに左右されず常にゲームを代表する顔となっていたカードたちはほとんどいなくなり、基本セットのリリースのたびに拡張セットと拡張セットをつなぐ強いカードが試合環境の顔に次々と成り替わる基本セットの様子は、拡張セットと大差ないものとなったのです。
そして現在のMtGでは、基本セットは完全に廃止されました

ハースストーンの「変身」

楽しく遊ぶためには「変身」が必要だとMtG開発陣の中心人物マーク・ローズウォーター氏は言います。「変身」には大きな代償が必要ですが、今もエキサイティングなカードゲームを遊べているのはたしかにその代償あってのことです。

MtGの歴史に学べば、ハースストーンはまだまだ「変身」の途中です。
同じ道を歩むのなら、クラシック・セットは半数が入れ替え制となることもあるでしょう。拡張セットで昔使っていたカードと再び出会うこともあるでしょう。MtGの殿堂プロプレイヤーかつハースストーンのプロプレイヤーであるブライアン・キブラー氏もそうした案を提唱しています。


MtGプレイヤーでありハースストーンプレイヤーでもある私のような人間が最も懸念しているのは、そうした変化に伴う代償を過大評価して、楽しむことを諦めてしまう初心者の存在です。
そうした初心者に対して短絡的な思考しか持たないだとか、学ばない人間だと揶揄することはできますが、それはコミュニティ全体にとって最もあってはならないことです。そもそもこうしたスタンダード・フォーマットへの変革の必要性は、第一に初心者のためのものです。

新しいローテーションまでまだ時間があります。その時までに、様々な情報が飛び交うでしょう。その中で、「変身」の内容が明かされることと思います。
そして、あらゆる変化にはメリットとデメリットの双方が生まれるものです。「変身」への備えが必要です。
ここまで読んでくださったみなさんはもう備えを身につけているものと思われます。それは、知識です。
ハースストーンに何が起こっているのか、何が起こりそうなのか、それに伴うメリットとデメリットの可能性はどうなのか、それを調べる手がかりもいくつか出てきました。
備えを活かして今後もハースストーンコミュニティを盛り上げ、自身もハースストーンを楽しんでいきましょう。

なにか意見があればTwitterでお待ちしています。

参考

基本セット - MTG Wiki
変身 | マジック:ザ・ギャザリング

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