ウタカタカルタと祖先の幻視

こんにちは。すべらきです。
『今週おすすめのVTuber動画』というラジオのコーナーで好き勝手喋っています。
今回もラジオで話した内容に加筆をして記事にしたので、読んでいただければ嬉しいです。

さて、2019年のお盆にあった『ぽんぽこ24 vol.3』という24時間番組内で私たちに強烈な印象を植え付けてくれた「市松寿ゞ謡」さんをご存知でしょうか。
私は彼女をこの機会に知ったのですが、彼女は市松人形の姿をもったVTuberです。
CMではなく、MVに衝撃を受けたぽんぽこによって出演を打診され登場した彼女は、まずそのMVを披露し驚嘆を以って私たちのもとに出迎えられることになりました。

ウタカタカルタ🔷市松寿ゞ謡【オリジナル曲】

すごくないですか。私は卓越したセンスだと思いました。
あまりにも衝撃を受けたので、その話をします。

まず、市松人形VTuberという存在について。
市松人形というと現代ではホラーな印象が否めないですし、私もそう思っていました——市松寿ゞ謡を見るまでは。

彼女を見たときにホラー的な側面はすぐに消え去って、どこかかわいらしい感覚が芽生えたんです。
彼女自身も「怖いと思われるのはおいしい。」「ただ、(市松人形は)自分の子の代わりとして可愛がられた存在なので、かわいいんですよ」と発言しています。
そうなんですよね、本来怖がらせる目的の人形ではないことは怖がる私たちの中でも自明のことだと思うんですが、それではなぜ市松人形を怖がったのか?市松寿ゞ謡は怖くないのか?

これは、表情がついたというのが大きい理由だと思います。
彼女の声もかわいいんですが、実際に動いている姿を見るとそれまでどこか無機質で固い表情に見えた市松人形に表情の機微が存在しているんです。
人間は自分に似て近しいものに親しみを感じやすく、非なるものに不安や恐怖を感じるものですから、市松人形に表情や動きがつき、かつそれが人間らしいものだと恐怖は和らぐんだなと理解しました。
昔は今ほど娯楽に種類がなく、「絵」というものに対する感じ方や感動がとにかく今とは違った体験なんだろうなという個人的な印象があります。「昔の人は想像力が豊か」という言葉でそれを表現することもありますが今も想像力は豊かですし、適当な言葉が見つからないのが悔しくもありますが、きっと市松人形を作った人も市松寿ゞ謡さんのように動くかわいらしい人形の姿を想像していたであろうことは、想像に難くないのです。

次に、「サイケ(サイケデリック)」と称されるその色彩感覚について。
MVはかなりギラギラした色彩を以って私たちを迎えますが、個人的にはサイケという少しアウトローな非日常的な表現よりは、極彩色という芸術方面の言葉で表現したいです。

和服は普段から柄物の印象がありますから改めて捉えられ直すことが少ないですが、実は古くからあるものというのは、そもそもとても色彩豊かなものです。
今では色が褪せていますが仏像などはカラフルに塗られていましたし、神社は特にそうです。建立当時を復元している建物やCGデータを見ればわかりますが、極彩色に彩られているのです。
こうした例は海外にもあることで、有名なのは古代ギリシャの大理石彫刻です。あれは年月が経って色が剥げてしまったことと、ルネサンス期のヨーロッパ人の古代ギリシャに対する理想により、古代ギリシャの大理石彫刻は白い大理石のイメージが今でも根強くあります。しかし、造られた当時はカラフルに塗られて美しく肉付いていたことが分かっています。
サイケという感覚は楽曲とのシナジーを表した言葉だと仮定すれば、極彩色という感覚はヴィジュアルとのシナジーを作り上げているんじゃないかというのが彼女のMVを驚異的足らしめている要素なのかな、と考えています。

彼女の強烈な印象からついついとりとめもなく書いてしまいましたが、彼女が今後何をしていくのか楽しみにできる機会を持てて本当に嬉しいという熱量が伝われば幸いです。

ラジオでは、「VTuberから古代に思いを馳せるの良いね」と言われてこれは嬉しかったですね。
好き勝手喋ってることにコメントをもらうのは恥ずかしいですが、有難いものです。
何かありましたら、マシュマロをやっていますのでこちらへどうぞ。

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